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大阪高等裁判所 昭和35年(ネ)479号 判決 1963年2月27日

理由

控訴人が被控訴人主張の本件約束手形一通を訴外大伍鋼球株式会社に対し振出交付したことは当事者間に争がなく、(証拠)を総合すると、訴外会社は本件手形を白地式裏書により被控訴人に譲渡したこと、被控訴人が右手形の所持人としてこれを満期に支払場所に呈示して支払を求めたところ支払を拒絶されたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

そこで、控訴人主張の悪意の抗弁について判断する。(証拠)を総合すれば、次の事実が認められる。

「訴外大伍鋼球株式会社は昭和二二年九月頃倒産し、右会社に対する債権者らにより債権者団体が結成され、被控訴人がその委員長に、的場繁造がその副委員長に各就任した。これより先、訴外会社は控訴人より本件手形を融通手形として振出交付をうけ、これを取引銀行たる株式会社神戸銀行鶴橋支店に割引を依頼したところ、割引を受けられなかつたので、訴外会社振出の別手形により融資を受けたうえ、本件手形を、その担保として同銀行に差入れた。ところが、本件手形の満期前の昭和三二年一二月一〇日頃右訴外会社の専務取締役目形秀男は前記債権者団体の副委員長的場繁造を同道して前記銀行に赴き、訴外会社の定期預金等をもつて右銀行に対する債務の決断を遂げた結果同銀行に担保手形として差し入れてあつた本件手形の返還を受けた。その際、目形は的場より本件手形を債権者団体に引渡すよう要求されたが、右手形は前記のとおり、元来控訴人よりの融通手形であり、結局それが利用せられないまま不用の手形に帰し、訴外会社より振出人たる控訴人に返還すべきものとなつた事情を的場に説明して一応その引渡を拒んだけれども、結局的場の右要求を容れて本件手形を同人に交付し、同人は更に前記整理委員長たる被控訴人に交付したものである。」

叙上の認定事実によると、前記的場は本件手形を訴外会社より交付を受けた際、訴外会社においてこれを振出人たる控訴人に返還すべき義務を負担している事実を知悉していたことが明らかである。しかして、前認定の事実に原審ならびに当審における証人的場秀晃の証言を総合すると、前記的場は債権者代表たる整理委員長の被控訴人を代理して訴外会社代表者目形に対し本件手形の引渡を交渉して、その裏書譲渡をうけたことが認められるので、右手形の譲受人たる被控訴人において前記事情を知悉してこれを取得したものといわねばならない。(民法第一〇一条参照)

およそ、手形の受取人がこれを振出人に返還すべき義務を負担している場合に、右受取人のなす手形譲渡行為は右義務違反であつて、かかる事情を知悉したうえこれを譲受けた者は右義務違反に加担したものに外ならないから、右手形の譲受人が前記不法な行為に基き取得した手形上の権利を行使するのは信義則に違反し許されないと解するを相当とする(いわゆる一般悪意の抗弁))

しからば、右説示にてらし、本件手形の振出人たる控訴人は、その所持人たる被控訴人の本件手形金請求を拒絶しうるものといわねばならないから、被控訴人の本訴請求は、失当で棄却すべきものである。

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